7月1日にリリースした郷土玩具「鬼ヨーズ」
勇壮で迫力ある姿。
初めて見た時、心を鷲掴みにされた鬼ヨーズ。
長男が生まれると冬に隣近所親類縁者で集まって、大きな鬼ヨーズをみんなの手で仕上げていく。
魔除けや繁栄を願って正月に空高くあげる。
単なる遊びとしての凧揚げではなく、ど
こか神聖。でも温かみがある。
勇壮な意匠に加えて、成長への祝福、願いが込められて製作されている。
そんなところが一層、胸を打つ。
中国では正月に凧揚げをしてその年の吉凶を占うという風習があったと前何かで読んだことがあって、なんとなくその事も思い出したり。
古代の見島を想像し、ひとりロマンを感じてみたり。
郷土玩具は昔から好きで、学生時代では郷土玩具の研究や調査に関わっていたりもして。
その頃は天神人形という各地にある菅原道真の人形の調査を中心にお手伝いしていて、顔とか衣服の特徴から作者や産地がわかる、という特技が身についていた事も。笑
萩の見島に伝来する鬼ヨーズをはじめ、山口にも数々の伝説や昔話が伝わっている。
ひいては日本中各地に同じように民話や伝承、時にそれらが愛らしい郷土玩具となっていたりする。これがたまらない。
大抵は紙、木、竹などシンプルな暮らしに使われてきた素材。
どこか間の抜けた愛らしい表情や姿。
だけどなんとも言えない人情味が感じられるもの。
テレビや文明が発達して、全国どこでもある程度の質と速さで均一の情報がキャッチできる世の中だけれど。
まだまだその土地へ足を運べばその郷土特有の匂い、風土を感じることができる。
どこかへ行くとローカルな土産屋を覗き、その土地ならでは素朴な郷土玩具を見つけると今でも顔が緩む。
素朴ながらも手にとると郷土の匂い、土や磯、山の匂いが思い出されるような
郷土玩具。
製材から生まれた端材などを再利用して、いつか形にできたらいいなとアイデアをしたためながら、この数年、構想を温めていました。
ひょんな事で、そんな話をBEPPU PROJECTのバイヤー月田さんと話していたある日、
ゆめはくの開幕に合わせた郷土玩具の開発の提案をいただく。
ゆめはくは、今年7月1日から開幕した山口ゆめ回廊博覧会。通称ゆめはく。
折々で、ゆめはくに関わる方々の博覧会の目的、方向性などを聞かせてもらう事があり、7つの市と町、ひとつひとつ奥行きのある文化や個性を持つ町々が一体となるイメージにとても希望を感じていた。
このタイミングで形にしたいと開発に着手。
BEPPU PROJECTは大分県別府を拠点とするアートNPO。
ゆめはくの企画運営を担っており、別府でも数々のユニークなプロジェクトを成功させている。
月田さんにはバイヤーとしての観点を中心にアドバイスをもらいながら、
試作品を何度も製作。リリースまでずっと伴走してくれた感謝しきれない存在。
なんならリリース後の今も、一方的に深い絆を感じている。笑
同じく初期の試作段階からオンライン上でデザイン面やプロダクト品の観点からアドバイスをくださったgraf 代表 服部さん。
grafさんは山口ゆめ回廊博覧会のクリエイティブディレクターとして携わり、関西を拠点に家具・プロダクト品・店舗設計デザインからアートやクリエイティブなプロジェクトを手がけている。
時世柄、対面での確認が行いにくく郵送やオンライン、メール電話を活用。
お二人には何度も何度も意見をいただき、サポートいただきました。
本当にありがとうございます。
製作の上では、藁の提供と藁縄の編み方を伝授してくれた児玉勝美さんことたまさん。
細い藁縄がいいのでは、と方向性が見えたのはいいが、2ミリほどの細さの藁縄なんて流通していないし編み方もわからない。
そんな中、たまさんに相談してみたら駆けつけてくれて、すぐに編み方を教えてくださいました。
萩の美しい山里、弥富の稲藁も快く分けてくださいました。
たまさんは普段から神社のしめ縄を編んだり、山菜や美味しい野草を教えてくれたり暮らしや食の知恵を伝授してくれる存在で、もはや勝手に親戚のにぃちゃんだと思っています。笑
よく知っている人の素材で製作ができる事がとても嬉しい。
鬼ヨーズが隣近所の人たちで仕上げられていくところと通じる気がした。
たまさんと稲を分けてくれたたまさんお母さん、本当にありがとうございます。
顔に使用した材は中原木材が高度経済成長期に大量加工していた電気コタツの木枠の木を選びました。萩産檜や端材も検討しましたが、高度経済成長期のよすがでもある片隅で埃をかぶったこの材を生かしたいと思った。
岩絵具、絵筆、和紙などの素材や使用する道具。
極力萩市内や県内で材料を揃えていき、
少しづつ郷土玩具鬼ヨーズが出来上がってきました。
そして鬼ヨーズのふるさと、見島。
現在も多田一馬さんが勇壮な鬼ヨーズを製作されており、いつかお会いしたいと思いつつも
伝説の鬼ヨーズ名人、達人ということで、ドキドキもじもじしてしまっていたところを萩の提灯屋さん、大谷提灯ご夫妻が見島に一緒に行ってくださることに。
見島で暮らす大谷さんの同級生田中さんと共に、びっくりするほどすぐに多田さんにお会いすることが叶ってしまいました。
大谷さんご夫妻、見島の田中さん、本当にありがとうございます。
多田さん、大谷さんご夫妻と。
(せっかくなのでマスク外して撮影していただきました)
多田さんのつくる鬼ヨーズはとても凛々しく、迫りくる気迫があり本当に勇ましくてかっこいい。
気が漲っている。
しかし、恐ろしい形相で魔を払うだけではなく、情けや人情もある強く優しい鬼。
そんな思いも込められて鬼ヨーズの目には涙を模した和紙の装飾。
その話を思い出しながら多田さんの作った鬼ヨーズに見守られながら製作していると、
郷土玩具鬼ヨーズは、きっと鬼の涙から生まれた鬼ヨーズの精霊なんじゃないかな、
と、手を動かしながらひとり思う。
多田さんのご先祖は遡ると安土桃山時代には見島に暮らしていたとのことで、昔は島内にある神社の神職を担われていたとの事。
現在は神職はご親戚が引き継ぎ、多田さんは見島牛の育成の傍ら鬼ヨーズの製作を行っている。(多田さんは夏は海へ潜りウニ漁などもされるそう!パワフル。)
多田さんの優しさ、見島のみなさんの温かさに触れる場面が何度もあって
その度に静かに感動。
見島は、個人的には神秘的な島というイメージで、かの民俗学者 宮本常一も島を訪ねていて、奥の深さを感じる。
古墳があったり、中でも宇津観音の奥にある「仏石」とその風習に胸を打たれた。また改めてじっくり書きたい。
萩市役所、見島支所さんにも多大なご協力を頂きました。
なにかとバタバタドタバタな相談や連絡にも関わらず、
変わらず温かく対応してくださって本当にありがとうございます。
まだまだはじまったばかりの郷土玩具の旅はつづく。
出典:カメラで捉えた40年 萩の今昔写真集 角川政治著
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